「手のふるえが出てきた」「動作がだんだん遅くなってきた」——そう感じて病院を受診し、パーキンソン病と診断された日のことを、鮮明に覚えている方も多いのではないでしょうか。
診断後に頭をよぎるのが、仕事のことです。
「このまま続けられるのか」「職場に言うべきか」「転職や退職を考えた方がいいのか」。答えがすぐには出ないまま、不安だけが先に走っていく。
そんな状態の方に向けて、このページではパーキンソン病という病気の特徴から、働くうえで実際に起きやすい困りごと、使える支援制度や相談先まで、なるべく具体的にお伝えします。
パーキンソン病とはどんな病気か
パーキンソン病は、脳の中にある中脳の黒質という部分が変性することで、神経伝達物質のドーパミンが作られにくくなる進行性の疾患です。この疾患によって、脳のドーパミン不足が起こります。
ドーパミンは筋肉への指令を伝える役割を担っているため、これが不足すると体の動きに様々な支障が出てきます。
日本では現在約15万人の患者さんがいるとされており、50代ごろから症状がみられはじめ、年齢とともに患者数が増加します。国の指定難病(指定難病6)にも認定されており、医療費助成などの支援制度の対象となっています。
発症年齢は50〜65歳に多いですが、40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれます。若年性の場合、仕事や子育てまっただ中での発症になることも多く、将来への不安が一層大きくなりやすい面があります。
4つの運動症状が中心にある
パーキンソン病には「4大症状」と呼ばれる特徴的な運動症状があります。
一つ目は「振戦(しんせん)」——安静にしているときに手足が小刻みにふるえるものです。
動いたり何かしようとするときには、ふるえが止まることが多いのが特徴です。ふるえは最初に気づかれやすい症状のひとつで、「疲れのせいだろう」とやり過ごしてしまうこともあります。
二つ目は「筋強剛(きんきょうごう)」——筋肉がこわばり、体がスムーズに動かせなくなる状態です。
常に力が入っているような状態になるため、疲れやすくなったり、細かな動きが難しくなったりします。
三つ目は「無動・寡動(むどう・かどう)」——動作が遅くなり、動きが小さくなる症状です。
顔の筋肉がこわばりはじめると「仮面様顔貌(かめんようがんぼう)」と呼ばれる無表情な顔つきになることがあり、また字を書くとだんだん文字が小さくなっていく「小字症」が見られたりすることもあります。
四つ目は「姿勢反射障害」——体のバランスがとりにくくなり、転びやすくなる症状です。
病初期にはあまりみられず、進行するにつれて出現します。
運動症状以外にも気になることがある
パーキンソン病は「体が動きにくくなる病気」というイメージが強いですが、実際には運動以外の症状(非運動症状)も多く見られます。
便秘や頻尿、起立性低血圧(立ちくらみ)、発汗の異常といった自律神経症状のほか、うつや不安感、アパシー(意欲の低下)、幻覚や妄想といった精神症状、さらには睡眠障害なども見られることがあります。
疲れやすさや気分の落ち込みは、「歳のせいかな」と流されやすいのですが、パーキンソン病による非運動症状として現れていることも少なくありません。
仕事に集中できない、朝なかなか起きられないといった悩みが、こうした症状と関係している場合もあります。
進行は人それぞれ。「10年は普通の生活が可能」とも
パーキンソン病は進行性の疾患ですが、その速さは個人差が大きいです。適切な治療を行えば、通常発症後10年程度は普通の生活が可能とされています。
症状が完全になくなるわけではありませんが、薬物療法やリハビリとうまく組み合わせることで、仕事や日常生活を長く維持できるケースは多くあります。
パーキンソン病を抱えながら働くうえでの困りごと
「オン・オフ」の波に仕事のペースが左右される
パーキンソン病を長く抱えている方に特有の悩みが、薬の効いている時間(オン)と効きが切れた時間(オフ)の波です。
病気は徐々に進行し、罹病期間が長くなると、薬の効果が切れてしまって動けない状態(オフ時間)が生じたり、ジスキネジアという体を不規則に動かしてしまう不随意運動が出現したりします。
オフの時間は突然やってくることもあり、会議中や作業中に体が思うように動かなくなることがあります。これが「いつ来るかわからない」という不確かさを生み、仕事上の予定を立てにくくする原因にもなります。
動作の遅さと精度の問題
手のふるえや筋肉のこわばりは、仕事の場面でも直接影響します。たとえばキーボード入力の速度が落ちる、書類への記入がうまくできない、物を持ちあげたり運んだりが困難になるといったことが起きてきます。
職場で「なぜこんなに時間がかかるのか」と感じさせてしまうことへの申し訳なさや焦りは、精神的な負担にもなります。焦りがオフを引き起こしやすくするという悪循環もあり、「急かされる環境」は特に体にこたえやすいです。
通勤そのものがひとつのハードル
足がなかなか前に踏み出せない「すくみ足」や、バランスの崩れによる転倒リスクは、駅のホームや階段、人混みの中での移動を難しくします。電車での通勤が体力的・精神的に重くなり、仕事に着く前から消耗してしまうという方は少なくありません。
通勤の負担がそのまま仕事のパフォーマンスに影響するため、「近場への転職」や「在宅勤務への切り替え」を選択肢に入れることが、長く働き続けるための現実的な工夫のひとつになります。
精神症状や睡眠障害が集中力を奪う
うつや不安、アパシー(身の回りのことへの関心が薄れてしまったり、顔を洗う・着替えるといったことをする気力がなくなったりする状態)といった精神症状は、仕事への意欲ややる気にも影響します。「やる気がない」と周囲に思われてしまうことがありますが、これは病気の症状として起きていることです。
また、夜間の睡眠が浅くなることで、日中の集中力が落ちやすくなります。職場で「ぼんやりしている」「反応が遅い」と見られてしまうことの辛さも、当事者にしかわかりません。
病気を伝えるかどうかの板挟み
若年性パーキンソン病の方、あるいは働き盛りの年代での発症であれば特に、職場への開示は重い選択です。
「伝えればキャリアに影響するかもしれない」「誤解されるかもしれない」という懸念がある一方、体調に波があるなかで黙ったまま働き続けるのも限界がある。その板挟みで悩む方が多いです。
働き続けるための工夫と対処法
薬のタイミングと仕事のスケジュールを合わせる
オンの時間に重要な業務を集中させ、オフが予想される時間帯は比較的軽い作業に充てるという工夫をしている方もいます。
主治医と連携して服薬スケジュールを調整することで、オンの時間をある程度予測できるようになることもあります。症状日誌をつけて、一日の中でどの時間帯が動きやすいかを記録しておくことは、自分自身の傾向を把握するのにも、主治医への伝達にも役立ちます。
職場への伝え方を工夫する
開示するかどうかは本人の判断ですが、「何の配慮が必要か」を整理して伝えることが、職場の理解を得やすくするポイントです。
「パーキンソン病です」と病名を出すことよりも、「薬の効果が切れる時間帯があり、そのときは動作が遅くなることがある」「長時間の立ち仕事や精密な手作業は難しい」といった具体的な情報の方が、職場側も動きやすくなります。
主治医に「就労に関する意見書」を作成してもらい、会社の人事担当者や上司に見てもらう方法もあります。文書があることで、口頭だけの説明よりも状況が伝わりやすくなります。
リモートワークや勤務形態の見直しを検討する
通勤の負担が大きい場合、在宅勤務への切り替えを交渉することが、体調の安定につながることがあります。また、始業・終業時間をずらすことで、ラッシュを避けたり、薬の効果が出る時間帯に出勤できたりするケースもあります。
現在の職場でこうした変更が難しい場合は、テレワーク可能な職場や、より柔軟な働き方が認められる環境への転職を検討することも選択肢のひとつです。
リハビリを仕事と並行して続ける
パーキンソン病では、適切なリハビリを続けることが症状の進行を遅らせる効果があるとされています。
理学療法や作業療法を通じて、歩行の安定や手の動きの維持を図ることは、仕事のパフォーマンス維持にも直結します。「働きながらリハビリを続ける」ことを無理なく両立できる環境を整えることが、長期的な就労継続のカギになります。
パーキンソン病の方が使える支援制度と相談先
特定医療費(指定難病)助成制度
パーキンソン病は指定難病に認定されているため、一定の要件を満たすことで医療費の自己負担を軽減する助成を受けられます。
通院・服薬が長期にわたる病気だからこそ、こうした制度はきちんと活用したいところです。
申請は都道府県の窓口を通じて行い、主治医作成の「臨床調査個人票」が必要です。詳しくはかかりつけ医や保健所に相談してみてください。
身体障害者手帳の取得が可能な場合もある
パーキンソン病そのものが障害者手帳の取得対象になるわけではありませんが、手足の麻痺や硬直など、身体的な症状により日常生活に影響が出ていると判断される場合、症状の程度によっては身体障害と認定され障害者手帳の取得が可能です。
手帳があれば障害者雇用の枠での就職が可能になるほか、福祉サービスを使いやすくなります。主治医に相談しながら検討してみてください。
障害者総合支援法による就労支援
障害者総合支援法の対象疾病にはパーキンソン病も含まれており、障害者手帳がなくても就労継続支援(A型・B型)や就労移行支援などのサービスを利用できる場合があります。
フルタイムでの一般就労が難しい時期でも、こうした福祉サービスを活用しながら社会とのつながりを保つことができます。利用できるかどうかはお住まいの市区町村の障害福祉課で確認できます。
ハローワークの難病患者就職サポーター
一部のハローワークには、難病を持つ方の就職活動を専門的に支援する「難病患者就職サポーター」が配置されています。
求職活動の進め方だけでなく、企業への病気の伝え方、職場環境の条件整理なども相談に乗ってもらえます。障害者手帳の有無にかかわらず利用できるため、まず相談の入口として活用しやすいです。
難病相談支援センター
各都道府県に設けられている難病相談支援センターは、療養生活から就労、家族の悩みまで幅広く相談を受け付けています。
大阪府には「大阪難病相談支援センター」があり、専門の相談員に継続的に話を聞いてもらえます。「まだ具体的な問題になっていないけれど不安がある」という段階でも気軽に利用できる場所です。
医療ソーシャルワーカー(MSW)への相談
通院先の病院に医療ソーシャルワーカーが在籍している場合、就労や生活上の困りごとについて相談することができます。
主治医との橋渡し役になったり、利用できる制度を一緒に整理してくれたりするため、「誰に相談すればいいかわからない」という段階でも頼りになる存在です。
「まずは自分のペースを確かめる」という選択肢
一般就労に向けてすぐに動き出すことが難しい時期には、就労継続支援B型という選択肢があります。雇用契約を結ばずに、自分の体調やペースに合わせて作業に取り組める環境で、週何日・何時間通うかも自分で調整できます。
「働きたい気持ちはあるけれど、体調が読めなくて踏み出せない」という方が、外に出ることに慣れるところから始める場所として活用されているケースも多くあります。
パーキンソン病は障害者総合支援法の対象疾病に含まれているため、障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書等があれば利用できる場合があります。お住まいの市区町村の窓口にまず確認してみてください。
東大阪市にある「わんすてっぷ」について
東大阪市にある就労継続支援B型事業所「わんすてっぷ」では、難病や障害など様々な背景を持つ方が、それぞれのペースで作業に取り組んでいます。
軽作業や八百屋でのレジサポート、ネイルの練習など、内容も多彩です。「作業についていけるか不安」「通い続けられる自信がない」という声もよく聞きますが、最初は見学や体験からのスタートで構いません。どんな雰囲気か、自分が無理なく通えそうかを実際に確かめてから判断できます。
パーキンソン病を抱えながら「次の一歩」を探している方、あるいは「今の自分にできることを少しずつ増やしていきたい」と思っている方は、まず気軽にご連絡ください。
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指定難病全体の概要や支援制度については、親記事もあわせて参考にしてください。
まとめ
パーキンソン病は、ゆっくりと進行する病気です。診断直後から仕事ができなくなるわけではなく、工夫と支援次第で長く働き続けている方もたくさんいます。
大切なのは、「今の自分にできること」と「今必要なサポート」を一緒に考えてくれる人や場所を見つけること。ひとりで抱え込まず、医師や支援者に相談しながら、自分のペースを大切にしてください。
このページが、あなたの次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。
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